広島高等裁判所 昭和55年(う)57号 判決 1980年7月08日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人河原和郎作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
控訴趣意第一点(原判示第二事実に関する法令適用の誤りの主張)について
論旨は要するに、原判示第二事実につき、被告人は、指定制限速度を表示する道路標識を看過したため、本件場所が公安委員会の設置した道路標識等により最高速度が四〇キロメートル毎時と制限されていることを認識していなかつたのであるから、指定制限速度違反罪の故意犯が成立しないのにかかわらず、被告人に道路交通法二二条一項、一一八条一項二号を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
そこで、記録を調査して検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は、原判示日時場所において七〇キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転したが、その際設置してある道路標識を看過し、本件場所が最高速度を四〇キロメートル毎時と制限された場所であるとの認識を欠いていたことは所論指摘のとおりである。
しかし、関係証拠によれば、被告人は、かつて運転免許を取得していたことがあり、本件当時政令で定められた最高速度が六〇キロメートル毎時であることを知つていたにかかわらず、これを超える速度で車輛を走行させる認識を有していたことが明らかであるところ、このように法定速度に違反する犯意で指定制限速度違反を犯した場合には、法定速度違反罪と指定制限速度違反罪の各法益、法定刑が全く同種、同一であつて、その最高速度の制限が公安委員会の指定に基くものか又は政令に定められたものかの差異でしかないことを考慮すれば、生じた結果についての故意を阻却するものではないと解するのが相当である。してみると、被告人には指定制限速度違反の故意犯が成立するから、被告人の原判示第二の所為に道路交通法二二条一項前段、一一八条一項二号を適用した原判決は正当であつて、所論のような法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。<以下、省略>
(干場義秋 荒木恒平 堀内信明)